激安サービスや格安会社のレビュー/戸川利郎

激安サービスや格安会社の評判をレビューします。~戸川利郎

サウスウエストなど米格安会社の戦略~戸川利郎

会社の後輩によくこう聞かれます。「アメリカの格安会社や低コスト企業は永遠に脅威なのか」。


実のところ、そんなはずはないとだれもが思っています。


破格の低価格で業界リーダーに勝負を挑む企業など、最後には破綻すると高をくくっているのです。


1つには、アメリカのジミー・カーター政権により1978年10月に始まる航空規制緩和後、アメリカの航空会社は、ピープル・エキスプレスに代表される格安航空会社を撃退したことが挙げられます。


しかしその後、サウスウエスト航空やジェットブルー航空という新たな脅威が出現した事実を忘れてはなりません。これら格安航空会社は低運賃と最低限のサービスによって、アメリカ国内市場で高いシェアを獲得しました。かつての格安航空会社とは違って、ちゃんと儲かっています。


格安企業はさまざまな戦術を繰り出して優位を築きます。その戦略とは、顧客セグメントを1つ、ないしは2、3に限定したうえで、標準的な製品よりも優れた、あるいはライバルを凌ぐベネフィットを1つだけ提供します。そして、効率的なオペレーションでコストを抑え、低価格を維持します。


その好例が、アメリカで食料品チェーンのトレーダー・ジョーズを展開する、ドイツ最大のディスカウント・ストア、アルディです。
ドイツのエッセンに本社を置くアルディは、熾烈な競争が繰り広げられるドイツ市場で急成長を遂げてきました。アルディの優位性は、第1に在庫の規模です。アルディの店舗は1万5000平方フィートと比較的小さく、また通常のスーパーマーケットの取扱商品は2万5000種を超えるますが、アルディのそれは約700種の商品(うち95%はストア・ブランド)と少なくなっています。


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しかし、販売量はライバルの比ではありません。それゆえ、サプライヤーに低価格かつ高品質を要求できます。実際、アルディのストア・ブランドの多くは、ブランド・コンテストや試食テストで高い評価を受けています。また、取扱商品数を絞ることでサプライチェーンの機動性を維持しています。


地価の安い繁華街の裏通りや郊外に店舗を構えていることも、アルディの経営効率に一役買っています。店舗の床面積が小さいため出店コストは低く、市場全域をカバーできます。アルディは現在、ドイツ国内に4100店舗、全世界では7500店舗を構えています。


店舗では、過剰なサービスを排除します。在庫補充の時間とコストを減らすため、商品は棚ではなく箱積みのまま陳列されます。顧客はレジ袋を持参するか、有料のレジ袋を店内で購入しなければなりません。


アルディは、ショッピング・カートを利用する際の保証金払い戻し制度をいち早く導入した企業の1つです。。来店客は保証金の払い戻しを受けるためにカートを所定の場所にきちんと戻すため、カートがあちこちに放置されることはなく、これを集めるための手間暇が節約できます。


その一方、アルディは店舗運営の基本をしっかり押さえています。店内には複数のレジが設置され、最も混雑する時間帯でもレジの待ち時間は短くなっています。レジ・スキャナーの高速読み取り機能によって、レジ担当者は来店客の会計を迅速に処理できます。


地域ごとにプライシングを変える小売業者が多いなか、アルディは、国ごとには異なるとはいえ、全店舗に同一価格を設定しています。この戦略が功を奏し、「消費者の味方」というイメージがいっそう強化されました。実際、ドイツ国内で実施された2006年のブランド調査で、アルディはシーメンス、BMWに次いで第3位にランキングされています。


商品価格は、ライバルのそれより低くなっています。仕入価格に運送費、賃貸料、マーケティング・コストおよびその他の間接費として約8%、人件費として約5%が上乗せされています。その結果、ヨーロッパの小売業者の多くが28~30%のマージンを確保しているが、アルディのそれは平均13%です。


2005年、ドイツの全世帯の89%が「アルディに最低一回は足を運んだことがある」と答えているのも驚くに値しません。また、ヨーロッパのある市場調査会社の調査によれば、アルディは、ドイツ国内のスーパーマーケット市場で20%のシェアを獲得しています。


以上の例から明らかなように、低コスト企業のそろばん勘定は既存企業のそれとは異なります。粗利益は業界リーダーよりも少ないですが、それをカバーするだけの営業利益率を実現するビジネスモデルを構築しているのです。営業利益率は高い資産回転率によってさらに拡大し、ROA(総資産利益率)を押し上げています。


格安会社は、高い営業利益率と成長率によって時価総額を高め、ついには株式を大量発行している業界リーダーの時価総額を上回ります。たとえば、ヨーロッパの格安航空会社の最大手であるライアンエアの2006年度の売上げは21億ドルで、ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)の155億ドルの7分の1程度ですが、営業利益率で見れば、BAの7・35%に対して22・7%と3倍です。2006年5月28日現在、ライアンエアの時価総額は76億ドルに達し、BAの73億ドルを上回ります。


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格安企業がランキングの上位に顔を出すことはめったにありませんが、莫大な富を創出しています。たとえば、2006年の『フォーブス』誌の世界長者番付を見ると、上位25人中12人は低コスト企業の設立あるいは相続によって、巨万の富を得た人物です。


ウォルマートの創業者、サミュエル・ウォルトンの相続人5人の資産は合計800億ドルと推定されています。そのほか、アルディのテオ・アルブレヒトとカール・アルブレヒトが320億ドル、イケアのイングヴァル・カンプラードは280億ドル、ミタル・スティールのラクシュミ・N・ミタルは235億ドル、デルのマイケル・デルは170億ドル、〈ザラ〉などの有名ブランドを傘下に置くスペインの巨大アパレル・メーカーであるインディテクスのアマンシオ・オルテガ・ガオナは148億ドル、インドのソフトウエア大手の一角を占めるウィプロ・テクノロジーズのアジム・H・プレムジは130億ドルと推定されています。


興味深いことに、低コスト企業が業界リーダーとの競争に勝てるのは、消費者の購買行動が自分に有利に働くためです。調査の結果、通常価格で製品やサービスを顧客に提示した時、ライバルがより低い価格を提示した場合に限って、その顧客を奪われることが明らかとなりました。


低価格で消費者を抱き込もうとする企業は、プレミアム価格を追求する大手企業について何ら心配する必要はありません。むしろ、より低いコスト体質を備えたニュー・カマーに注意すべきでしょう。その好例がサウスウエスト航空です。


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2000年まで、サウスウエスト航空のコストはアメリカ航空業界のなかで最も低いものでした。しかし、従業員の高齢化に伴い、燃料費を除くコストが上昇しました。2004年には、有効座席1マイル当たりのコストが6・2セントに達しましたが、それでもデルタ航空、ノースウエスト航空、ユナイテッド航空などのライバルの8セントよりは約25%も低かったのです。


ところが、2000年に操業を開始したジェットブルー航空は、2000年の有効座席1マイル当たりのコストを4・7セントに抑えました。これはサウスウエストより25%も低くなっています。つまりサウスウエストにとって、大手航空会社よりもジェットブルーのほうが手強いライバルとなったのです。


戸川利郎
https://www.access-all-japan.jp/


参考:https://keypage.jp/interview/ohataryosuke/